大崎梢、成風堂書店シリーズの第1弾と第2弾ー大崎梢「配達あかずきん」「晩夏に捧ぐ」(創元推理文庫)

2020年1月23日木曜日

大崎梢

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 首都圏近郊の駅ビルの6Fにある、通学や通勤帰りの学生や勤め人が寄っていく書店・成風堂という中規模の書店を舞台にした日常系ミステリーの第1弾と第2弾が「配達あかずきん」「晩夏に捧ぐ」(創元推理文庫)です。

ミステリーの舞台設定の一つとして、一般人では経験できないような場面を提供する、というやり方があるが、本書は、これとは違い、ひどくお馴染みの場所でありながら、経験できない場を提供する、という簡単なようでかなり高度な技が提供されています。


街中の「書店」のふんわりミステリーをどうぞ ー 大崎梢 「配達赤ずきん」


本シリーズの役者は、当然、この書店に勤める書店員さんで、24歳のまだうら若い杏子(きょうこ)さんと大学の法学部在学中の多絵ちゃんがメインで進められる「書店ミステリー」の第1弾が『大崎 梢 「配達赤ずきん」(創元推理文庫)』。

探偵役の多絵ちゃんはアルバイトのためフルタイムでの登場(勤務)はできないのと、ワトソン役の杏子さんは、かなりのお喋りで事件の秘密バレバレという状態になるので、まあ、二人で一役といったところです。

【収録と注目ポイント】


収録は

「パンダはささやく」
「標野にて、君が袖振る」
「六番目のメッセージ」
「ディスプレイ・リプレイ」

となっていて、第一話の「パンダはささやく」は、寝たきりの老人から知り合いを通じて託させる暗号のメッセージ。ここで、この物語の語り部の杏子さんと、探偵役の多絵ちゃんが登場。

痴呆症気味の老人のしゃべる暗号まがいの注文の謎解き、という風で始まるのだが、どうしてどうして、深いわけが潜んでいたとは恐れ入るといった次第。

第二話の「標野にて、君が袖振る」は、昔、交通事故で死んだ息子の隠された秘密にいきあたり、どこか行方不明になった母親の行方をさらに推理するというお話。年月を超えた恋物語ではあるのだが、ちょっと最後の落ちは、強引すぎるような気がしてタテツケがわるいかな。

第三話の「配達あかずきん」は成風堂のお客さんの美容院の届けた本がトラブルの元になって、その美容院が存亡の危機に陥る。その苦境を多絵ちゃんがすっぱり解決、という次第。美容院への配達を担当する店員の女の子の天然さがなんとも可愛い。

第四話の「六番目のメッセージ」は、成風堂の男店員が入院した患者にお勧めの本を提案していて、そのご本人から感謝の言葉をもらうのだが、その当の店員が見つからない、さて、その店員は誰、といった感じのお話。書店にそんなに雑多な種類の人がいるなんて書店関係者でないとわからないよね、というオチ。恥ずかしながら、患者さんに提案された本、実は私は一つしか読んだことがなかったですわ・・。

最終話の「ディスプレイ・リプレイ」は出版社が主催するコミックのディスプレイ・コンテストに参加した成風邪堂の店内ディスプレイで発生したトラブルの解決編。コミック・ファンの女子大生のファン魂が解決を導いた、というところかな。

【レビュアーから一言】


本シリーズのような、人が死なない「ミステリー」は、子供のいじめを含め、若い人たちが将来を悲観させるような出来事が多い時は、読む方の気持ちを「ふんわり」とした感じで包んでくれて、精神衛生上、非常のよろしい。
 とりわけ、登場人物に悪人がでてこないせいか、「人」に対する信頼を再認識させてくれるようで、心が荒みそうなときはお勧めの作品であります。

地方の老舗書店の「幽霊」の謎に多恵が挑戦する ー  大崎梢「晩夏に捧ぐ」


都心の駅ビルの6Fにある中規模書店で働くしっかり者の姉さん肌の「杏子」さんと「理知的」で分析と推理力抜群ながらとんでもなく不器用なアルバイト「多絵」ちゃんが活躍する「成風堂」シリーズの出張番外編が『大崎梢「晩夏に捧ぐ」(創元推理文庫)』である。

実質的には、第1弾の「配達赤ずきん」の次の作品であるのだが、舞台的に「成風堂」ではなく、元同僚から地方の老舗書店で起きた事件の解決を頼まれて、はるばる「長野県」まで出かけての推理劇である。

【あらすじと注目ポイント】


話の発端は「成風堂」に二年前まで勤めていた「美保さん」という女性から、彼女が今勤めている長野県の老舗書店(まるう堂というらしい)に幽霊が出る、なんとか、この謎を解いてくれという依頼が入るところから開幕。

この「まるう堂」という書店は、貸本業からスタートした大正十一年創業という老舗で、ちょうど夏休みということでもあり、避暑と老舗地方書店の現状調査も兼ねて杏子さんと多絵ちゃんが現地に赴き謎解きに取りかかる、っていう筋立てですね。

で、依頼された「まるう堂」にでる幽霊っていうのが、「今出ました」といった手合いではなくて、昭和50年代の初めに、惨殺された小説家・嘉多山を殺した犯人の面影があるというもの。この事件の犯人として逮捕され、獄中で死亡した新人小説家・小松の卵は、この作家が惚れていた資産家の女性との三角関係のもつれで殺人事件を犯した、ということになっているのだが、実は犯行現場に立ちすくんでいたということで捕まったもので、冤罪の疑いが当時から噂されていた、といういわくつきである。

で、この「幽霊騒ぎ」の謎解きと、この50年前の殺人事件の真相を、セットで解決しましょうというところで、「多絵」ちゃんの才能全開となります。彼女の

「特別だからこそ本気。今度の話だって、初めの手紙を読んだときからけっこう燃えてるんですよ。本屋を揺るがすような幽霊騒動でしょ。今ここで宣言しておきますね。私、この謎はぜったい解いてみせます。」

という意気込みはすごいですな。

ただ、このため、この作家の甥やら、作家が晩年懸想した高慢さがにじみ出る、美人の資産家の元お嬢様、作家の内弟子といったのが入り乱れての推理劇が本作の中心となります。ただ、まあ殺された小説家も癖があるし、内弟子たちも作品をこの小説家に認めてもらって文壇デビューとギラギラしているし、殺人犯とされた青年も才能はあるようだが、この小説家からは酷評されることも多くて、といった具合で、結構ドロドロした人間関係を解きほぐしていく推理となります。

そして、この過去の殺人事件のカギとなるのは、殺された小説家が現場で昼間書いていた原稿の一部が行方不昧になっていた、というところなのだが、ここらの謎解きの詳細は原書で。

そして、この過去の事件の謎解きが、現在の「幽霊事件」へとつながっていき、謎解きをした多絵ちゃんが真犯人に襲われることになるのですが・・・といった展開ですね。

【レビュアーから一言】


謎解きとセットで興味深いのは、地方の書店経営がどんなものか、といったことがあちらこちらで感じられるところ。たとえば、

地方書店が現行システムに対して持っている不満は、これまでもいろいろ、見聞きしてきた、話題になる本は全国の本屋で一斉に注文をかけるので、出版社は応じきれずに出荷数に調製を入れる。出版社を出た本は取次をまわるので、さらに、そのとき、さらに数がいじられる。結果、まわってくる本の冊数は希望数より大幅に減ってしまう。

などなど。こういった苦難を乗り越えて、地方で書店も維持している経営者の皆さんに敬意を表する次第であります。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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