ジャーナリスト探偵・太刀洗万智の「苦い」謎解き=米澤穂信「真実の10メートル手前」(創元推理文庫)

2022年11月13日日曜日

米澤穂信

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 ユーゴスラビアからの留学生少女・マーニャと日本の地方都市の高校生との交流と日常の謎解きが、母国の紛争で引き裂かれる物語「さよなら妖精」で、名バイプレイヤーとしての役割を演じた「大刀洗万智」が就職し、ジャーナリストとなり、取材する事件に隠された謎解きをしていく物語が本書『米澤穂信「真実の10メートル手前」(創元推理文庫)』です。


時系列的には、「さよなら妖精」と、主人公・大刀洗万智のネパールでおきた王宮殺人事件の取材中に遭遇する事件を描いた「王とサーカス」の間の短編集です。


あらすじと注目ポイント


収録は


「真実の10メートル手前」

「正義漢」

「恋累心中」

「名を刻む死」

「ナイフを失われた思い出の中に」

「綱渡りの成功例」


の六篇。


第一話の「真実の10メートル手前」は、万智が大学を卒業し、東洋新聞の大垣支部に在職している時の物語です。設定では、太刀洗は、ここに新卒で入り、6年間在職のあとフリージャーナリストになっていて、この物語では後輩として配属されて男性カメラマンと取材活動をしているので、現場にもなれた時期の話となります。


事件のほうは、経営破たんして、行方不明になっている創業者の妹で広報担当の「早坂真理」という女性の所在を追っていく話なのですが、たった一つの手がかりである真理の妹との電話のやりとりから場所を割り出し、最後に会った人物を割り出し、といった彼女の推理力が発現されていきます。謎解きのてがかりは「うどんみたいな」名物料理ですね。


ただし、捜索取材の結末はあまり口当たりのいいものではありません。


第二話の「正義漢」は、人身事故の起きた吉祥寺の駅のホームが舞台です。この物語では、事故に遭遇した一人の男性の視点から語られるのですが、そこでは、事故によって停車した電車の車体の下にある被害者の欠片でもなんとか撮影しようと、携帯電話のカメラを向け、ボイスレコーダーで「事件です」と声高に喋ってレポートしようとする太刀洗の姿です。


普段のクールな彼女の態度からは想像しがたい、「ガツガツ」した感じなのですが、実はその行動には別の意味があって・・という筋立てです。


人身事故の被害者が、電車内で迷惑行為を繰り広げていた初老の男だった、というところが謎解きのヒントでしょうか。この時期、大刀洗はすでにフリーになっているようです。


第三話の「恋累心中」では、太刀洗はスッパ抜き記事が有名な週刊誌の記者・都留の取材活動のコーディネーターとして登場します。この記者がおっかけているのは恋愛関係にあった高校生男女が三重県の「恋累(こいがさね)」というところで死んでいた事件です。女子のほうは崖の上で喉を突いて死んでいるのを、男子のほうは崖の下を流れる川の、現場から200メートルほど下流で見つかったというもので、この取材にちょうど、県議会議員への爆弾送付事件の捜査をきていた大刀洗が、週刊誌の依頼でこの記者のヘルプに入った、という設定です。


しかし、現場には世をはかなむ遺書があったため、心中事件として扱われているこの事件で、太刀洗は遺書の書かれたノートの最後のほうのページに「たすけて」と乱れた文字で書かれている写真を手に入れ、さらに、この高校生たちが、服薬するとかなり長時間苦しんで死ぬ「黄燐」を赤ワインにいれて飲んだことが直接の死因であったことを知り、本当に「自殺」だったことに疑問をいだき始めます。


都留と太刀洗は、学校関係者の取材を行っていくのですが、「黄燐」の入手先が心中した二人の通っていた高校の理科室であろうと推理し、大刀洗に連れられてその高校へ潜入します。そこで都留が見たのは、高校生たちの心中事件を利用しようとしていたある「大人」の「謀み」で・・という展開です。


この事件も死んだ二人の高校生の「失意」が伝わってきて、「イヤミス」の傾向が強いですね。


このほか、自宅で死んでいた男性の第一発見者である中学生が、太刀洗とともに、彼の残した遺書の中の「名を刻む死を遂げたい」という言葉の謎をといていく「名を刻む死」、「さよなら妖精」で登場したマーニャの兄・ヨヴァノヴィチと一緒に、叔父の少年が、姪の3歳の幼女を刺殺した事件の真相を暴いていく「ナイフを失われた思い出の中に」、台風災害の中、自宅に取り残されながらも、コーンフレークを食いつないで救助されるのを待っていたという美談の老夫婦が隠していた事実を明らかにしてしまう「綱渡りの成功例」など三作が収録されています。


レビュアーの一言


大刀洗万智の登場しているミステリは、「さよなら妖精」も「王とサーカス」もけしてハッピーエンドな謎解き物語ではなかったのですが、この短編集も謎解きとは別にごろんとでてくる事実はビターなものが多いですね。

まあ、そのあたりは「さよなら妖精」で見せた、心の中に熱情をもちながらもそれを表にだせず苦悩していた「太刀洗」の成長後の姿としては納得できる流れではあります。

「イヤミス」とまではいきませんが、「ビター」な味わいのミステリがお好きな方におすすめの短編集です。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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