美人ジャーナリスト探偵・太刀洗は、ネパール王宮の銃撃事件に遭遇=米澤穂信「王とサーカス」

2022年11月14日月曜日

東川篤哉

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 「さよなら妖精」で、ユーゴからの留学生・マーニャと4人の高校生との短い交流生活の中で、彼女の隠れた相談相手として、マーニャを襲った不幸な出来事を一人で背負っていた大刀洗万智が、フリーのジャーナリストとして取材に訪れたネパールでおきた「ナラヤンヒティ王宮事件」に関連した殺人事件のスクープと謎解きをしていく「大刀洗」シリーズの第2弾が本書『米澤穂信「王とサーカス」(創元推理文庫)』です。


あらすじと注目ポイント


構成は


1 祈るにも早い

2 トーキョーロッジ二〇二号室

3 レンズキャップ

4 路上にて

5 王の死

6 長い葬列

7 弔砲の夜

8 噂の街

9 王とサーカス

10 傷文字

11 注意を要する上出来の写真

12 茶話

13 尋問と捜索

14 ハゲワシと少女

15 二人の警官

16 INFORMER

17 銃と血痕

18 勇気の源

19 ペンを構える

20 がらんどうの真実

21 敵の正体

22 偉大なる場所

23 祈るよりも


となっていて、物語の舞台は、大学を卒業して6年間務めた東洋新聞大垣支社を退職後、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の企画の事前取材で訪れたネパールです。

時代設定的には2001年なので、9月のアメリカ同時多発テロはあったものの、日本人の海外旅行者数も1500万人を超え、2002年の日韓ワールドカップの開催を控え、アジア圏からの旅行者も急増していた時代です。


物語の最初はトーキョーロッジという格安ホテルに泊まっている主人公・太刀洗万智が、ホテルの前で地元の少年・サガルからアンモナイトの化石を売りつけられそうになる場面から始まります。追いすがる彼を振り切って、同宿のロブというアメリカ人とレンズ豆のスープとナンを食堂でまったりと食べたりと、ホテルに帰れば、日本を離れて長期間、インドやネパールに滞在している僧侶・八津田と世間話をしたり、昼食で天ぷら屋に行ったりと、当時のアジア諸国での緩やかな時間が流れていくあたりが描写されています。

バックパッカーの貧乏旅行をした経験のある、年配の旅人には懐かしい風景ではないでしょうか。

しかし、こうした緩やかなネパール滞在に突然邪魔が入ります。ネパールの王宮で月1回開かれていた晩餐会で、一人の王族によって集まっていた王族や廷臣たちが銃撃され、9人が死亡、4人が重傷をおうという事件が発生します。

当然、首都カトマンズは厳戒体制が敷かれるわけですが、政府からの公式発表は詳しいことは伏せられたままで、現地にいた太刀洗が、日本の雑誌社とかけあって、臨時の特派員として、この事件の詳細を調べ始めることになり、という筋立てです。


しかし、ネパールの政府筋や宮廷にはなんのコネクションもない太刀洗は、情勢が緊迫する首都の状況や、王宮を取り巻くデモ隊の様子を現地レポートするぐらいしかできず、事件の真相やスクープネタからは遠い状況です。


そんな折、ホテルの女主人のチャメリから、王宮務めの軍人のラジェスワル准尉への取材ができるかも、という提案を受け、ラジェスワルの指示する廃業したレストランに行くのですが、ラジェスワルの意図は外国人記者の動向を探るためだったことが判明し、インタビューは不発に終わります。ところが、翌日、デモ隊の取材をしての帰り道、ビルに挟まれた路地裏の空き地で、上半身が裸で銃で撃たれて死んでいるラジェスワルの死体を発見します。さらに彼の背中には刃物で「IBFORMER(密告者)」と刻まれています。


自分が彼を取材しようとしたため、彼がなにかの情報を洩らすことを警戒した何者かによって殺されたのではないか、そして、次の標的は自分では、と恐れる太刀洗なのですが・・という展開です。


少しネタバレしておくと、現在に至るまで、事件に真相に様々な不明点のある「ナラヤンヒティ王宮事件」の隠された真相につながるか、と思わせる筋立てなのですが、そう思わせておいて、ネパールの裏の収入源へとつながっていくミステリです。


ただ、ここで安心しておくと最後のところで、もう一捻りの展開が隠されているので最後まで気を抜かないほうがいいですね。


レビュアーの一言


単行本版の2015年6月の「あとがき」のところでは、


本書には拙作「さよなら妖精」の登場人物が登場しますが、内容的には連続していません。いわゆる「第二巻」ではないので、「さよなら妖精」をお読み頂いていなくて問題はありません


と筆者は書いているのですが、「さよなら妖精」を読んでおくと、ああ、あのクールな大刀洗がこうなったのか、という感慨を覚えますし、出版年的には後となる「真実までの10メートル手前」を読んでおくと一層、大刀洗万智の鮮明なイメージを持って読み進めることができます。なので、個人的には「大刀洗」シリーズの読む順番としては、「さよなら妖精」→「真実までの10メートル手前」→「王とサーカス」がオススメです。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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